領域と排他的経済水域、領土問題【地理のハナシ】

第1部 第2章 日本の姿(3)

はじめに

  • 海に囲まれた日本の領域には、どのような特色があるのかを確認しましょう。
  • 領域(領土・領海・領空)や排他的経済水域接続水域公海、領土問題(北方領土竹島尖閣諸島)などの重要語句を解説しています。
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1.領域について

領域とは、一つの国の範囲のことで、国家の主権がおよぶ範囲でもあります。領域は、一定の土地(領土)を中心に、その周辺の一定の海域(領海)とそれらの上空(領空)からなります。内陸国のように領海が存在しない国家はあっても、領土が存在しない国家はありません。領域の範囲は、領土が領域の限界になるところでは国境線によって決まり、領海があるところでは領海の限界によって決まります。

1.1.領土

領土とは、国家の主権が及ぶ陸地のことです。領土が陸続きで他国の領土と接している場合は、その限界が国境となります。日本の領土は、北海道・本州・四国・九州の比較的大きな4つの島と、そのほかの小さな島で構成されています。

日本の領土について、2013年の西ノ島の噴火活動によって領土が拡大するのではないかと話題になりました。領土が拡大することについて、国際法ではどのように考えられているのでしょうか。次の文献にはこのようにあります。

領域の得喪(取得と喪失)、変更に関しては国際法の規則が存在する。国家がある土地に対する領有権を取得するために必要な法律上の根拠を領有の権原という。伝統的には、割譲、先占、時効、併合、征服、添付の6種類の権原が認められている。この中で、添付は自然現象により領土を取得することであり、たとえば、国家の海岸、河岸、湖岸が堆積により面積を増大した場合、あるいは、領海内に海底火山の噴火によって新島が出現した場合などがこれにあたる。

引用:『世界大百科事典29』P.703

上記のように、国家がある土地に対する領有権を取得するために必要な法律上の根拠を「領有の権原」といいます。領有の権原の中で、自然現象によって領土を取得することを添付といいます。西ノ島の噴火活動は、この添付と関係があります。

2013年に西ノ島付近で噴火が起こり、沖合に新しい陸地が出現したことで、ニュースや新聞等でも新島が出現したと報道されました。その後、西ノ島とこの新島が一体化したことで、西ノ島の面積が拡大することになりました。そこで、国土地理院と海上保安庁が西ノ島の地形や周辺の調査を行い、その結果を次のように公表しています。

国土地理院と海上保安庁は、平成29年4月以降の噴火活動により拡大した西之島の地形や同島周辺の水深の変化を反映するため、西之島の地形図と海図を改版し、5月31日に発行します。
平成29年6月発行の地図と比較すると、西之島の面積は0.17㎞²の増加にとどまるものの、陸域が西側に広がることから、我が国の管轄海域(※1)の面積がさらに約50㎞²(領海:約4km²、EEZ:約46㎞²で東京ドーム約1,000個分)拡大することになります。
 ※1 領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせて「管轄海域」としています。
 ※2 平成25年の噴火前と平成29年6月の地形図及び海図発行時の西之島の面積変化:2.43㎞²増加、管轄海域の面積変化:約50㎞²増加

引用:「西ノ島の地形図と海図を改版~我が国の管轄海域がさらに約50㎞²拡大~」 海上保安庁ホームページ

上記のように、西ノ島付近の噴火活動によって、西ノ島の陸域が西側に広がり、管轄海域(領海と排他的経済水域)の面積が拡大することになりました。このように、領域は様々な状況で変化することがあり、それによって領域が拡大、あるいは縮小することになります。

1.2.領海

領海とは、沿岸国の主権が及ぶ海域のことで、基線から12海里(約22km)の線までが範囲となります(1海里=約1852m)。基線は、海岸の低潮線、湾口もしくは湾内等に引かれる直線と規定されています。

領海の幅については、18世紀の初め、オランダのバインケルスフークが沿岸からの大砲の着弾距離をもって領海の幅とする説を唱えました。また、18世紀末には、当時大砲の射程距離の限界と考えられていた3海里を領海の幅とすることが主張されています。このことを受け、19世紀には、イギリス・アメリカなどの主要国が領海の幅を3海里としました。しかし、領海の幅が3海里に統一されることはなく、1930年の国際法典編纂会議、第1次・第2次の海洋法会議においても、領海の幅を統一することはできませんでした。第二次世界大戦を終え、1973年から開催された第3次海洋法会議において、領海の幅を12海里の範囲にするという考え方が優勢となります。結果、この会議で、領海の外側に200海里の排他的経済水域を新設することと、領海の幅を最大限12海里とすることが合意されたのでした。

日本も「領海法」を1977年に公布して、領海の幅をそれまでの3海里から12海里に拡大しました。さらに、1996年に国連海洋法条約を批准したことで、「領海法」を改めて「領海および接続水域に関する法律」とし、国連海洋法条約に従って、基線については従来の低潮線に加えて直線基線も採用できるようになりました。直線基線について詳しくは、海上保安庁ホームページの「管轄海域情報~日本の領海~ 直線基線について」を参考にしてみてください。

1.3.領空

領空とは、領土と領海の上空で、その国の主権が及ぶ空間のことです。 領空の内側を航空機などで許可なく自由に航行することは、国際法上では認められていません。しかし、これでは航空機での国際交通が不便になるので、国家が2国間または多数国間の条約を結ぶことで、相互に領空の無害な航行を認めあうことが一般的となっています。

航空機などの発展によって、領土の上空を法的にどのように捉えるのかが問題となりました。地上の国家にとって、領土の上空の自由な飛行を認めることは、軍事的にも非常に危険が及ぶことになります。第一次世界大戦の頃には、航空機が実戦で使われるようになり、領土の上空を「領空」と捉えることが支配的となりました。1919年にパリで署名された国際航空条約では、国家が「その領域上の空間において完全かつ排他的な主権を有する」ことが明記され、1944年のシカゴで採択された国際民間航空条約(通称シカゴ条約)でも、国際航空条約の規定をもとに、領空主権の一般的な原則が確認されました。

このような背景から、領空の主権が認められるようになりましたが、一般的に領空には上限がないものと考えられていました。しかし、1957年の人工衛星の打ち上げ以後、領空の上限をどこまでとするのかが議論され始めます。1966年以降に採択された宇宙条約では、宇宙空間が国家の領有の対象とならないことを規定しました。そうすると、領空と宇宙空間の境界を定める必要ができてしまいました。この問題は、国際連合の宇宙空間平和利用委員会でも継続的に審議されていますが、今でも一般的な合意を得ていません。領空の高さについては諸説ありますが、帝国書院ホームページの「領空の高さはどこまでですか」において、領空の高さについて詳しく述べられていますので、参考にしてみてください。

2.排他的経済水域と接続水域、公海について

                               ※引用:海上保安庁ホームページより

排他的経済水域とは、領海の外にあって、沿岸から200海里(約370㎞)以内の海域のことです。1982年に採択された国連海洋法条約によって設定された水域で、経済水域やEEZ(Exclusive Economic Zone)とも略称されます。排他的経済水域では、沿岸国がすべての資源の探査や開発・保存・管理及び同水域のその他の経済的活動について排他的な管轄権が認められています。また、資源利用やその他の経済活動の面では領海と同じで、航行や上空飛行・国際コミュニケーションの面では公海に同じという性格を持っています。

接続水域とは、領海の外にあって、沿岸から24海里(約44㎞)以内の海域のことです。排他的経済水域の一部でもあります。接続水域では、通関や財政・出入国管理(密輸入や密入国)・衛生上(伝染病等)に関する法令違反の防止及び処罰を行うことが認められています。接続水域が設定されるようになった背景は、船舶の船足が速くなるにつれて、領海内で密輸の取締りを十分に行うことが困難になってきたことにあります。このような背景から、沿岸国が関係諸国と条約を結び、接続水域の設定を認めてもらうようになりました。具体的な事例としては、次のようなものがあります。

禁酒法時代のアメリカが、1924年以来イギリスその他の国々といわゆる禁酒条約を結んで、酒の密輸入監視のために、沿岸から航行1時間の範囲まで、密輸の疑いのある船舶に臨検・捜索・拿捕を行うことができることを認めさせたのは有名な例である。

引用:『世界大百科事典15』P.589

1982年に採択された国連海洋法条約で、沿岸国は沿岸から24海里を越えない範囲で接続水域を設定することができるようになりました。

公海とは、領海および排他的経済水域の外側で、いずれの国にも属さない海域のことです。公海では、すべての国の船舶の航行や漁業などを自由に行うことができる「公海自由の原則」が認められています。公海使用の自由には、航行の自由や上空飛行の自由、漁獲の自由、海底電線および海底パイプラインを敷設する自由、人工島その他の施設を建設する自由などが含まれます。この他に、演習や兵器の実験に使用する軍事的利用の自由も伝統的に認められています。しかし、これらの自由を行使する場合には、他国の利益に合理的な考慮を払うことが必要とされています。

3.領土問題について

領土問題とは、複数の国による領土権をめぐる紛争のことです。日本の領土問題に関しては、外務省ホームページの「外務省が日本の領土をめぐる情勢」の日本の領土Q&Aにて、次のように述べられています。

日本政府は、一般的に、他国との間で解決すべき領有権の問題という意味で「領土問題」という表現を使っています。日本が関わる領土問題は、ロシアとの間の北方領土問題及び韓国との間の竹島問題です。

引用:「外務省が日本の領土をめぐる情勢」日本の領土Q&A 外務省ホームページ

上記のように、日本政府によると、日本が関わる領土問題はロシアとの間にある北方領土の問題と韓国との間にある竹島の問題ということになります。しかし、ここには尖閣諸島の問題が記述されていません。尖閣諸島の問題について日本政府はどのように考えているのでしょうか。日本の領土Q&Aでは、尖閣諸島の問題について次のように述べられています。

尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません。

引用:「外務省が日本の領土をめぐる情勢」日本の領土Q&A 外務省ホームページ

上記のように、日本政府によると、尖閣諸島をめぐる解決すべき領有権の問題は存在しないという見解となっています。教科書でも「尖閣諸島をほかの国の領土とする条約を結ばれたことはなく、日本政府による管理も及んでいるため、ほかの国との間で解決すべき領有をめぐる問題はありません。(『中学生の地理』帝国書院)」と記述されており、日本政府による解決すべき領土問題は、北方領土の問題と竹島の問題となっています。

北方領土とは、北海道の北東部にある択捉島・国後島・歯舞群島・色丹島とその周辺の領域のことで、日本固有の領土です。第二次世界大戦後、日本が千島列島と南樺太の領有を放棄したことについて、日本と旧ソ連・ロシアの間で見解が異なることから領土問題が生じています。日本は、北方領土が日本の固有の領土であるとし、ロシアへ返還を求めています。

竹島とは、島根県隠岐の島町に属する、大小2つの岩礁とそのまわりの小さな岩礁からなる島のことで、日本固有の領土です。韓国は独立以降、領有権を主張して竹島に海洋警察隊や灯台を置いて、実効支配をしています。日本はこれに抗議し、国際司法裁判所での話し合いを呼びかけていますが、韓国は応じてはいません。

尖閣諸島とは、石垣島から約150㎞離れた東シナ海上にある島々のことで、沖縄県の石垣島に属する日本固有の領土です。尖閣諸島では、1960年代に石油などの資源が周辺の海底にある可能性が注目され、1970年代に入り中国や台湾が領有権を主張するようになりました。日本は2012年に、尖閣諸島を平穏に維持・管理するために、その大半を国有化しています。

それぞれの領土問題に関しては、外務省のホームページにも詳しい解説やQ&Aがありますので、参考にしてみてください。

出典など

参考文献

『地理用語集 第2版』2019 地理用語研究会編 山川出版

「管轄海域情報~日本の領海~ 直線基線について」 海上保安庁ホームページ

「領空の高さはどこまでですか」 帝国書院ホームページ

引用文献

『改定新版 世界大百科事典』2007 平凡社

「西ノ島の地形図と海図を改版~我が国の管轄海域がさらに約50㎞²拡大~」 海上保安庁ホームページ

「外務省が日本の領土をめぐる情勢」 日本の領土Q&A 外務省ホームページ