大洋と大陸、それと州区分【地理のハナシ】
第1部 第1章 世界の姿(1)
もくじ
はじめに
- 地球上の大陸と大洋はどのように分布しているのかを確認し、世界はどのように区分できるのかを整理してみましょう。
- 三大洋(太平洋・大西洋・インド洋)と大陸(六大陸)、州区分(アジア州・ヨーロッパ州・南北アメリカ州・アフリカ州・オセアニア州)などの重要語句について解説しています。
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1.海洋について
海洋とは、地球上にある海のことです。地球の表面積は約5.1億㎢で、そのうちの約70%が海洋となっています。地球の海洋の大部分を占めているのが三大洋で、太平洋、大西洋、インド洋からなります。最も大きい海洋が太平洋で、約1億6624万㎢、次いで大西洋の約8656万㎢、そしてインド洋の約7343万㎢の順となります。それぞれ詳しく確認してみましょう。
1.1.太平洋
太平洋とは、世界最大の海洋のことです。太平洋は、ユーラシア大陸と南北アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸に囲まれています。太平洋の面積は地球の表面積の約35%で、海洋面積全ての2分の1を占めています。
太平洋の語源は、ポルトガル人の航海者であるマゼランが、最初の太平洋の横断航海が平穏であったことから平和な海(Mare Pacificum)と名付けたことによります。しかし、マゼランが太平洋に到達するより前に、スペインの探検家のバルボアという人物が太平洋を確認しています。1513年にバルボアは、黄金郷を求めてパナマ地峡に入り、山の頂から大海原を見渡しました。その大海原が太平洋であり、バルボアは太平洋を見た最初のヨーロッパ人となりました。その後、1519年にマゼランが、スペイン国王カルロス1世の援助によって太平洋横断と世界一周の航海に向かいます。マゼランは、1520年の暮れにマゼラン海峡を通過して太平洋に出て、そして1521年の3月に太平洋を横断してマリアナ諸島のグアム島に到着しました。この航海の間、マゼランの乗る船では、食料と水は十分ではなく、船員の病気にも悩まされたそうです。しかし、航海は静かだったことから、マゼランは太平洋を平和な海(Mare Pacificum)と名付けました。これが太平洋の語源となります。
それでは、日本ではいつからこの太平洋という言葉が使われるようになったのでしょうか。次の文献にはこのようにあります。
古くは中国書から取り入れた「寧海(ねいかい)」、「静海(せいかい)」などもあったが、幕末には「太平海」「太平洋」が並用されていた。但し当時は表記として「大平洋」が多く見られる。明治になり漢訳洋書の影響で次第に「太平洋」に統一されていった。
引用:『日本国語大辞典 第二版⑧』P.737)
上記のように、日本では、幕末の頃にすでに太平洋の言葉が使われていたことが分かります。しかし、当時の表記として「大平洋」(←間違えて覚えないように!)が多くみられるということで、使われていた言葉にばらつきがあったようです。これが明治の頃には、現在でも使われている「太平洋」になったようです。
1.2.大西洋
大西洋とは、世界第二の海洋のことです。大西洋は、東はユーラシア大陸とアフリカ大陸、西は南北アメリカ大陸に囲まれています。
大西洋(Atlantic Ocean)には、主に二つの語源があると考えられています。まず一つ目が、ギリシア神話のアトラスの名に由来するものです。古代ギリシアの世界観では、ヘラクレスの柱とは別に、世界の果てとされていた地中海の西端で巨神アトラスが天を支えていると信じられていました。そこにペルセウスが現れて、メドゥーサの首をアトラスに見せたため、アトラスが石になってしまったという神話があり、それが山脈となったそうです(諸説あり)。大西洋は、そのアトラスの山脈の先にある海ということで、アトランティコス(Atlanticos、アトラスの海)からアトランティック・オーシャン(Atlantic Ocean)になったと考えられています。
二つ目が、大西洋上にあったとされる伝説の大陸アトランティスに由来するものです。天動説や地球が平面だとする考え方が信じられていた時代のヨーロッパでは、大西洋の彼方に沸騰する海や大滝があり、怪物や怪魚、悪魔が住んでいると考えられていました。その時代に、大西洋上にアトランティスという大陸が存在したという伝説があります。この伝説については、次の文献にこのようにあります。
プラトン晩年の対話編≪ティマイオス≫と≪クリティアス≫を唯一の典拠とする伝説で、おそらく彼の創作と考えられる。かつてアテナイの政治家であり詩人でもあったソロンがエジプトに旅行した折、その地の神官が昔のアテナイ人の勇敢さをたたえ、古い記録に基づいて彼に語って聞かせた体制をなしている。
引用:『改定新版 世界大百科事典1』P.329
この伝説によると、ソロンの時代をさかのぼる9000年以前、ギリシア人がヘラクレスの柱と呼んだジブラルタル海峡のかなたに、アトランティスという名の島があったそうです。この島は、初代の王アトラスにちなんで命名され、そのまわりの海もアトラスの海と呼ばれました。彼らは強力な軍事組織を備えており、ヨーロッパやリビア(アフリカ)の一部まで支配下に置いていましたが、さらにヨーロッパとアジアとを一挙に隷属(れいぞく)させようとして侵攻しました。当時のアテナイ人は、彼らと勇敢に戦い、彼らを撃退した後にアトランティスにまで攻めのぼりました。しかし、大地震と大洪水とが重なり、一昼夜にしてアトランティスは海中に沈んでしまったそうです。これを実話としてとらえている人々もおり、中世のヨーロッパでは、このアトランティスの島は実在したものとして信じられていました。それ以来、アメリカ大陸やスカンジナビア半島、カナリア諸島などがアトランティスの島ではないかと考えられていたそうです。この伝説から、アトランティスの島の周りの海(Atlantic Ocean)が、大西洋の語源になったと考えられています。
1.3.インド洋
インド洋とは、世界第3の海洋のことです。インド洋は、アジア大陸とアフリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸に囲まれています。
インドは、インダス川のサンスクリット語のshindu(水、大河)に由来し、古代ペルシャ語のhinduを経て、アレクサンドロス大王の遠征でギリシャ語のindosになったと考えられています。
インド洋では、古くから東アフリカとアラビア、インドをつなぐ交易が行われてきました。これは、インド洋上を吹く季節風とインド洋の海流の向きの変化と深い関係があります。インド洋上では、夏には南西から季節風が吹き、冬には北東から季節風が吹くことで、季節によって風向きが変化します。インド洋の海流は、この季節風の影響を強く受け、夏には時計回りの海流となり、冬には反時計回りの海流に変化します。これらの季節風と海流の変化を利用して、インド洋では、紀元前から東アフリカとアラビア、インドを結ぶ航海が行われてきました。このため、インド洋は「海のシルクロード」とも呼ばれました。
2.大陸について
大陸とは、地球上の陸地のうち、面積の大きなものを指します。地球の表面積は約5.1億㎢で、そのうちの約30%が大陸となっています。地球上には6つの大陸が存在していて、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸で構成されています。これらの大陸は六大陸とも呼ばれています。
これらの六大陸は、はるか昔に一つの超大陸であったという考え方があります。これは大陸移動説と呼ばれる考え方で、ドイツの気象学者のA.ウェゲナーが1912年に提唱しました。この大陸移動説では、古生代(約5.4億年前~約2.5億年前)の前半まで地球の大陸はパンゲアと呼ばれる一つの超大陸であったと考えられています。このパンゲアが、古生代の後期から中生代(約2.5億年前~約6500万年前)に、ローラシア大陸とテチス海(古地中海)を隔ててゴンドワナ大陸(パンゲアの南部)に分裂しました。そして、ローラシア大陸が現在のユーラシア大陸、北アメリカ大陸、グリーンランドに分裂して移動します。さらに、ゴンドワナ大陸が現在の南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸、南極大陸にインド半島とアラビア半島、マダガスカル島に分裂して移動し、現在の大陸の分布になったと考えられています。このゴンドワナ大陸については、ウェゲナーの大陸移動説の前に、イギリスの地質学者のE.ジュースという人物の発見があります。
大陸移動説に先立ち、1901年E.ジュースは、南アメリカ、アフリカ、インド半島、オーストラリア、南極など南半球またはそれに近く分散してある各大陸の地層や古生物の分布に共通的特色があるのに着目し、これらは中生代のある時期まで超大陸の一部分であったと考え、この大陸をゴンドワナ大陸と名付けた。
引用:『改定新版 世界大百科事典17』P.154(一部改変)
このように、地球の大陸ははるか昔に超大陸であったという考え方が、様々な研究者から提唱されました。しかし、大陸移動説の考え方は、長い間受け入れられることはありませんでした。これは、大陸移動説では大陸を動かす原動力の説明ができなかったことに要因があると言われています。現在では、大陸移動説はマントル対流の理論によって説明され、プレートテクトニクスへと発展しています。
3.州区分について
州区分とは、南極大陸以外の世界の国や地域を、6つに分けた区分のことです。世界はアジア州、ヨーロッパ州、アフリカ州、北アメリカ州、南アメリカ州、オセアニア州に区分されます。それぞれ詳しく確認してみましょう。
3.1.アジア州
アジア州とは、ユーラシア大陸の大部分を占める州のことです。東アジア、東南アジア、南アジア、西アジア、中央アジア、シベリア地方に分類されます。
アジアという呼び方は、非常に古くから使われていました。しかし、あくまでも西側の世界からの呼び方であり、現在アジアと呼ばれる地域で生まれた呼び方ではありません。アジアの語源は、次のように考えられています。
アジアAsiaの語源は中東の古代国家であったアッシリアやアッカドの言語のAsu(日の昇る方角へ向かう)、あるいはフェニキア語のAsa(東の方角)などであろうといわれている。
引用:『世界地名大辞典1 アジア・オセアニア・極Ⅰ』P.19
上記のように、アジアという呼び方は、当時の文明圏からみて東側にある土地を意味したもので、西側の世界に対して相対的にとらえた概念であったということが分かります。
3.2.ヨーロッパ州
ヨーロッパ州とは、ユーラシア大陸の西部を占める州のことです。ユーラシア大陸の最西端にある半島部分と、これに近い島嶼(とうしょ)群で構成される範囲のことで、南の地中海と黒海、西の大西洋と北海、北のバレンツ海とノルウェー海に面しています。ヨーロッパには主に二つの語源があります。
まず一つ目は、フェニキア語の日没を示す言葉に由来するものです。次の文献にはこのようにあります。
ヨーロッパの語源がフェニキア語の日の出(Asu)に対する日没(Ereb)に由来するという説や、ギリシア神話のエウロペ(Europe)に由来するという説がある。ヨーロッパのことをオクシデント(Occident)すなわち西洋、アジアのことをオリエント(Orient)すなわち東洋とよぶのは、フェニキア語での東西の方角をさし示す単語に由来する。
引用:『世界地名大辞典6 ヨーロッパ・ロシアⅢ』P.3203
上記のように、ヨーロッパの語源は、当時の文明圏からみて西側にある土地を意味すると考えられています。さらに、ヨーロッパのことを西洋(オクシデント)、アジアのことを東洋(オリエント)と呼ぶことも、フェニキア語の東西の方角を示す言葉に由来することが分かります。
二つ目が、ギリシア神話のエウロペに由来するものです。ギリシア神話におけるエウロペにまつわる神話とは、フェニキア王の娘であるエウロペが、白い雄牛となって近づいたゼウスにだまされてクレタ島に連れ去られ、この島でゼウスとエウロペの子どもが育ち、ミノス王朝を築いたというものです。
3.3.アフリカ州
アフリカ州とは、アフリカ大陸とマダガスカル島などの周辺の島々からなる州のことです。サハラ砂漠より北側を北アフリカ、南側を中南アフリカと呼びます。
アフリカの語源は諸説あり、はっきりとはしていませんが、次の文献にはこのようにあります。
フェニキア語で、植民:カルタゴ(チュニス近郊)を中心とするローマ帝国の属州の名称。フェニキア語のAfryguaにちなみ、今日でもアラブ人はチュニジアをイフリキアと呼ぶ。他にベルベル人Afer(民族名)説、アラビア語Afar(領地)説がある。
引用:蟻川明男『三訂版 世界地名語源事典』P.15
上記のように、アフリカの語源は、ローマ時代に属州となったカルタゴを中心とする土地のことで、フェニキア語で植民の意味であると考えられています。しかし、他にもベルベル人の民族名や、アラビア語の領地などがあり、アフリカの語源ははっきりしていないようです。
また、アフリカのことを「リビア」と呼んでいたこともあります。イタリアの宣教師で、明の時代の中国で活躍したマテオ・リッチの「坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)」では、アフリカを「利未亜」と記しています。この「利未亜」という呼び方は日本にも伝わり、新井白石の「采覧異言(さいらんいげん)」(新井白石が著した世界地理書)などにも用いられています。
3.4.北アメリカ州・南アメリカ州
北アメリカ州とは、北アメリカ大陸とその周辺の島々からなる州のことです。パナマ地峡より北側の大陸部分と、その沖合の島々を含みます。南アメリカ州とは、南アメリカ大陸とその周辺の島々からなる州のことです。メキシコより南側の国々をラテンアメリカと呼びます。ラテンアメリカが主に歴史的・文化的地域区分であるのに対して、南アメリカは主に自然に基づく地域区分となっています。
アメリカという名称は、中部および南アメリカを探検したイタリアの探検家アメリゴ・ベスプッチの名に由来します。ドイツの地理学者のヴァルトゼーミュラーがアメリカの名付け親で、彼の著書の『世界誌入門』(1507)の中で、ヨーロッパ、アジア、アフリカのほかに、第4番目の大陸がアメリゴ・ベスプッチにより発見されたことが紹介されました。ラテン語で彼の名を書けばAmericus Vespuciusとなるので、ヴァルトゼーミュラーは、「アメリカスの国」の意味で「アメリカ」を提唱しました。しかし、このことには後日談があり、次の文献にはこのようにあります。
この名称は当時、新大陸を総称する地名がない上に、適切な地名を求める声が大きかったため、ただちに受け入れられた。しかし彼は、のちに事実の誤りに気づき、1513年に発行された地図にはAmericaをふたたび“Terra Incognita”(未知の土地)と書き直し、この大陸はその周辺の諸島とともに、イタリアのジェノバ出身であるコロンブスにより発見されたと訂正したのである。
引用:木村正史『アメリカ地名語源事典』PP.7-8
上記のように、ヴァルトゼーミュラーは、アメリゴ・ベスプッチの名前から新大陸を「アメリカ」と表記したようですが、これを訂正してTerra Incognita(未知の土地)としています。しかし、この時にはすでに、ヨーロッパの大部分でアメリカの名称が受け入れられていたそうです。
3.5.オセアニア州
オセアニア州とは、オーストラリア大陸とニュージーランド、ニューギニアなどの島々からなる州のことです。大洋州とも呼ばれます。大陸を除いたオセアニアの島々の世界は、メラネシア、ポリネシア、ミクロネシアの3地域に区分されます。メラネシアはギリシア語で黒い島々の意味で、住民の皮膚の色が黒いことによります。ポリネシアは多数の島々の意味で、ミクロネシアは小さな島々の意味です。オセアニアの語源は、次のように考えられています。
名称は、古代ギリシア神話に登場するオケアノス(Oceanus)に由来する。世界の周辺を取り巻いて水界が広がっているという世界観である。その名の通り、西洋世界からみて、最も周辺に位置し、最後に到達した空間がオセアニアだった。
引用:『世界地名大辞典1アジア・オセアニア・極Ⅰ』P.271
上記のように、ギリシア神話に登場する海神オケアノスがオセアニアの語源であると考えられています。ギリシア神話の世界では、世界は円盤状で、大陸の周りを海が囲んでおり、その海を回る神がオケアノスとなります。西洋世界から見ると、オセアニアの地域は最も周辺に位置していて最後に到達したことから、オケアノスがオセアニアの語源になったのでしょう。また、未知の南方大陸(Terra Australis Incognita)の探索も、この地域に西洋人を引き寄せる誘因となったようです。
出典など
参考図書
『改定新版 世界大百科事典』2007 平凡社
『日本国語大辞典 第二版』2000~2002 小学館
引用文献
蟻川明男著 『三訂版 世界地名語源事典』2003 古今書院
木村正史編 『アメリカ地名語源辞典』1994 東京堂出版
『世界地名大辞典』2012~2017 朝倉書店