日本の位置、極東・近東・中東【地理のハナシ】

第1部 第2章 日本の姿(1)

はじめに

  • 日本の位置をさまざまな方法で見た場合、どのように表せるかを確認してみましょう。
  • 極東近東中東などの重要語句について解説しています。
  • ノートの利用はこちら→地理のノート

1.極東について

極東とは、東アジア諸国およびその周辺地域のことです。一般的には中国、朝鮮、東シベリア、日本などを指しますが、ときには東南アジアまで含めることもあります。もともと「極東」とは、ヨーロッパから見てユーラシア大陸の東端を意味しているので、「近東」や「中東」などと同じく、確定した範囲を示すものではありません。

16世紀のポルトガルの航海以降、東アジア地域を意味する極東の考え方が生まれました。そこからオランダやイギリス、フランスなどの進出によって、「極東」という言葉がヨーロッパで一般的な用語になります。しかし、アメリカから見ると、東アジア地域は太平洋を挟んだ西側にあり、この地域を極東ととらえることは適切ではありませんでした。次の文献にはこのようにあります。

米国はアジアとの経済的なつながりを深めることで太平洋国家に転身し、ヨーロッパ経由の世界観である極東概念を用いる必然性を失っていく。米国から見れば、極東は西方に位置するからである。

引用:『世界地名大辞典:アジア・オセアニア・極Ⅰ』P.431

上記のように、アメリカは、特に第二次世界大戦後にアジアとの経済的なつながりが深くなったことで、ヨーロッパ中心の世界観である極東の考え方を用いる必要がなくなりました。ヨーロッパ中心の歴史観への批判が高まる中で、極東という言葉は次第に使われなくなってきています。

2.近東について

近東とは、ヨーロッパから見て東側の近い位置にあるトルコ周辺のアジアのことです。ヨーロッパから東の世界は、オリエントあるいは東方として意識されており、その中で最もヨーロッパに近い東方が「近東」となります。

もともと近東は、地中海の東地中海側に面したアジア地域を意味していました。しかし、16世紀以降にオスマン帝国がこの地域を支配すると、近東という言葉は、オスマン帝国の支配する領域を意味するようになりました。当時のオスマン帝国の領域について、次の文献にはこのようにあります。

それは、北アフリカの地中海沿岸部やマシュリクと呼ばれる東アラブ地域(シリア地方、イラク地方など)、小アジア、バルカン半島などからなっていた。

引用:『世界地名大辞典:中東・アフリカ』P.328

上記のように、当時のオスマン帝国の支配領域は、北アフリカの地中海沿岸部やシリア地方、イラク地方、小アジア、バルカン半島などでした。これは、現在のエジプトやトルコ、シリア、イラク、バルカン諸国などにあたります。しかし、19世紀に入りオスマン帝国が弱体化したことで、バルカン地域はオスマン帝国から独立しました。そこで、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、イギリス軍の戦略配置の再編に伴い、近東に代わって「中近東」あるいは「中東」という言葉が使われるようになっていきました。

3.中東について

中東とは、ヨーロッパから見て東側の地域のうち、極東と近東の中間に位置する地域のことです。一般的には、西アジアから北アフリカの範囲を中東と呼びます。しかし、「中東」はその地理的な範囲において合意があるわけではなく、「極東」や「近東」と同じで確定した範囲を示すものではありません。

中東は、古くから使われていた言葉ではありません。次の文献にはこのようにあります。

この言葉は、19世紀以降の近代におけるヨーロッパ列強が競い合う国際政治の場で、今世紀に入り軍事戦略上使われた用語であった。したがって、この言葉の初出も早くなく、アルフレッド・セイヤー・マハンというアメリカの海軍史家の1902年の論文「ペルシア湾と国際関係」においてであった。

引用:『世界地名大辞典:中東・アフリカ』P.614

上記のように、中東という言葉は、アルフレッド・セイヤー・マハンの論文で初めて使われました。この論文で中東は、中国を中心とした「極東」とオスマン帝国の領域にあたる「近東」に挟まれた地域を意味しています。しかし、近東においてオスマン帝国の弱体化と解体(1923年)が起こり、バルカン地域はオスマン帝国から独立して近東から離れることになりました。この結果、近東という言葉の代わりに「中近東」あるいは「中東」という言葉が、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて使われるようになります。そして第二次世界大戦後、国際連合が地理的な概念として「中東」を採用し、アメリカが「中東」という言葉を多用するようになったことで、中東という言葉が一般的に定着していくことになりました。

このように、中東という言葉は、欧米を中心とした国際政治の中で使われる地理的な概念となります。中東の範囲は、その言葉が使われる状況によって変化していきます。例えば、政治・経済的にヨーロッパとの結びつきが深まっているトルコでは、みずからの国家を中東に含めないことが多くなってきているようです。また、時のアメリカの大統領ジョージ・W・ブッシュは、新国際政治戦略の一環として、2001年9月11日の同時多発テロ事件の後で、中央アジアやパキスタンを含む「拡大中東」を提起しました。

出典など

参考文献

『改定新版 世界大百科事典』2007 平凡社

『地理用語集 第2版』2019 地理用語研究会編 山川出版

引用文献

『世界地名大辞典』2012~2017 朝倉書店